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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~

前回のブログでは、ターゲット層の情報収集方法や、それが潜在的ニーズか顕在化したニーズかによってPR戦略が変わる点についてお話ししました。今回は、ターゲットが細分化されている現状と、その影響について触れていきます。


昔は「オタク」というと、自分の趣味に没頭し、他人が何をしているかに関心を持たない少し変わった人というイメージがありました。しかし、最近の若者たちは、自分の好きなもの以外に興味を示さず、推しを全力で応援する「推し活」が当たり前となっています。


こうした状況では、ターゲットが細かく分かれるため、どの層にどうアプローチするかが難しくなります。しかし、情報が正確に届けば、その「推し活」を通じて消費行動が促進される可能性もあります。


具体的な例で説明しましょう。私たちの会社がPRをアニメ展覧会では、一見するとアニメファン全体にPRを展開すればいいように思われます。しかし、今の若者は特定のアニメを推しているため、自分が好きでない作品には興味を持たないことが多いのです。たとえば、「呪術廻戦」のファンが「鬼滅の刃」展に関心を持つとは限りません(もちろん、両方好きな人もいますが)。同じ週刊ジャンプに掲載されている作品であっても、ジャンプ全体のファンにアプローチするだけでは、思ったほどの効果が得られないかもしれません。


さらに、推しキャラや声優、アニメーターなど、ファンの「推し」が細分化されているため、個々の好みに合わせたPR展開が求められます。こうした細分化が進む中、従来のように「スポーツファンならどの競技も楽しめる」といった一般的なアプローチが通用しにくくなっています。したがって、幅広い若者層に自分たちの発信したい情報を伝えるのは、相手が興味を持たないものであれば、非常に難しくなってきています。


SNSなどのネットワークを活用すれば、情報がターゲットの間で拡散される可能性はありますが、そのネットワーク内にアプローチすること自体が難しいのです。


特に若者世代は、自分が興味のない情報には目を向けようとしません。このように、「推し活」の普及とともに、若者の意識も変化しており、関心外の情報を得る意欲が低くなっています。そのため、若年層へのPR活動はますます難しいものとなっているのです。

 
 

更新日:2024年10月21日

先日、「日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)」がノーベル平和賞を受賞したというニュースがありました。ノーベル賞には、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和、そして経済学の6つの分野があります。日本人はこれまでに5つの分野で受賞しており、とくに物理学と化学での受賞が目立ちます。平和賞に関しては、佐藤栄作元首相以来、実に50年ぶりの受賞です。


さて、この6つの分野の中で、日本人が唯一まだ受賞していないのが「ノーベル経済学賞」です。今年は、マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授とサイモン・ジョンソン教授、それにシカゴ大学のジェームズ・ロビンソン教授が受賞しました。なぜ日本人がこの分野で受賞していないのか、私なりに考えたところ、ひとつの理由は日本の教育制度にあるのではないかと思います。


日本では、経済学部が文系に分類されています。私自身、経済学部を卒業しましたが、入学試験で数学は必須ではなく、選択科目でした。入学後、経済学を学ぶうちに「数学の知識が必須だ」と強く感じるようになり、数学や統計学を多少勉強することになりました。しかし、学部内には数学を苦手とする学生も多く、苦戦したり、なかには一切数学などの科目に触れることなく卒業していった人も多いでしょう。私自身の経験から考えると、経済学は文系・理系の両方の知識を必要とする学問だったと思います。


実際、ノーベル経済学賞の受賞者を見ると、数学や統計学、計算機科学、心理学など理系のバックグラウンドを持つ方が多いことがわかります。もちろん、文系出身者の受賞例もありますが、経済学や経営学の分野では、理系の知識を持つ研究者が多くの成果を上げていることは事実です。


日本の教育システムでは、高校2年生から文理選択が行われるところもあり、文系を選んだ学生は、経済学を修めるための土台となる数学の基礎知識が欠けている状態で授業に臨まなければなりません。これでは、経済学の本質に深く触れるのは難しいでしょう。


一方、欧米の大学では、入学後に専攻を決めるため、数学を学んだ学生が経済や経営に興味を持ち、その分野で成果を出すことができる環境が整っています。こうした違いが、日本人がノーベル経済学賞を取れない背景の一因になっているのではないでしょうか。


高度なデジタル社会に突入した現代では、データ分析の重要性がますます高まっています。経済学の研究にも、数学や統計学の知識がますます必要となってくるでしょう。日本人が毎年ノーベル賞を受賞するたびに誇らしい気持ちになりますが、経済学賞だけは日本人の名前が挙がらない現状は、少し寂しいと感じるのは私だけでしょうか。


ただ、明るいニュースもあります。プリンストン大学の清滝信宏教授が、ノーベル経済学賞の候補者として名前が挙がっています。日本の大学での研究ではない点が少し残念ですが、いつか日本人初のノーベル経済学賞受賞者が誕生する日を楽しみにしています。

 

 

 
 

前回、若年層をターゲットにしたPRが難しくなってきた背景について触れましたが、今回はそのターゲットにどうアプローチすべきかを考えます。


現代では、情報収集の方法として主に二つの経路が考えられます。ひとつは、ネット上で自分から必要な情報を探す方法。もうひとつは、友人や知人から得る情報です。特にインターネット上で、ターゲットにどうやって情報を届けるかが、PR戦略を成功させるための鍵となります。


顧客の行動を理解する:ピラミッドモデル


商品やサービスに興味を持つ顧客は、メディアを介して段階的に購入に至ります。この顧客の行動を理解することで、効果的なPR戦略を設計できるのです。顧客の行動は、SNSをぼんやりと見ている段階から、最終的に購入する段階までピラミッド型に分けられています。


 

1. 受動的なSNS顧客層

ピラミッドの下層に位置する「F」から「D」の顧客層は、主にSNSから情報を受け取っている段階です。彼らはまだ商品やサービスに強い関心を持っていないため、投稿やプロフィールページを漠然と眺めているだけです。この層に対しては、ビジュアルが印象的で、ストーリー性のあるコンテンツが効果的です。過度な情報を与えるのではなく、受動的に見ているだけでも引き込まれるコンテンツを提供しましょう。


2. 能動的な検索顧客層


一方、ピラミッドの上層「C」から「A」に位置する顧客は、すでに商品やサービスに対して具体的な興味を持っており、積極的に情報を探しています。Googleなどの検索エンジンを使って、自分が知りたい情報を詳しく調べ、購入を検討します。この顧客層にアプローチするには、SEOを強化し、彼らが求める具体的な情報にすぐアクセスできるようなコンテンツを用意することが重要です。


3. メディアの使い分けが成功の鍵


ピラミッド図の右側では、「SNSの顧客層(潜在層)」と「Googleの顧客層(顕在層)」の違いが示されています。SNSを利用する潜在層は、自分が求めていない情報でも目に入る「受動的メディア」の影響を受けます。対して、検索エンジンを使う顕在層は、自分が必要とする情報を自ら探す「能動的メディア」を活用します。

 

この違いを理解し、SNS層にはバズを狙った広告や視覚的なコンテンツを提供し、検索層にはSEO対策や充実した商品説明を用意することが、PR戦略の成功に繋がります。


顧客がどの段階にいるかを把握し、それに合わせたメディア戦略を選ぶことがPR活動の成否を左右します。潜在層と顕在層、それぞれのニーズに合ったアプローチを取り入れることで、ターゲットにより効果的にリーチできるでしょう。

 
 

著者・橘川徳夫 プロフィール

顔写真 (2).jpg

中央大学経済学部卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、2001年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わってきた。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングがクライアントに好評を博している。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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