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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~


60歳で保険料の支払いが終わったため、生命保険の特約部分の保障がなくなりました。終身保障だけでは少し心もとないので、万が一に備えた死亡保障の保険に新たに加入することにしました。

保険共済やテレビCMで有名なネット保険などいろいろ検討しましたが、「医療保障はいらない」「最低限の死亡保障だけ」というニーズに合う保険は意外と見つかりません。そんな中、保険代理店をしている知人に、元保険営業だった私の希望を伝えたところ、ぴったりのプランを提示してもらい、スムーズに契約まで進みました。

うん、やっぱり分かってる人は話が早い!

 

実は、妻の医療保険の相談で、近所の保険ショップに行ったときにこんなことがありました。こちらは「あの保険に入りたい」と目的まで決めているのに、ショップの方はマニュアル通りの質問を延々と繰り出し、「保険に何を求めていますか?」「どんなことがご不安ですか?」……って、こっちが保険の説明してあげたいくらいだと思いました(笑)

もちろん、保険ってあとで「聞いてない!」というトラブルも多いので、丁寧な説明が必要なことはわかります。でも、知ってる人にまで、何もかもゼロから説明するというスタンスには、ちょっとモヤモヤするわけです。

 

これって実は、PRの話にも通じます。PRって、「ちゃんと説明したか」よりも「ちゃんと伝わったか」が大事なのです。知らない人には丁寧に、知ってる人には要点だけ──それが“伝える力”ってもんです。

にもかかわらず、最近は“誰にでも同じ説明をすること”がコンプライアンスの証、みたいな風潮になっています。でもそれって、逆に「相手のことをまったく見てないですよ」って宣言してるようなもんじゃないですか?

たとえばラーメン屋に行って、「麺は小麦粉でできています」って言われたらビックリしますよね?「知ってるわ!」ってツッコミ入れたくなります。

それと同じで、“わかってるおじさん”にも延々と説明してくる現代の制度は、ちょっとばかり窮屈です。


今回の保険加入で感じたのは、「伝えることは、相手の理解度を想像すること」ということです。これはPRの世界にもまるっと当てはまります。

「知らない人に何をどう伝えるか」と同じくらい、「知ってる人にどこまで省略して話すか」も大切な技術だと思います。

私たちPR業界の人間は、情報を届けるだけでなく、“どう届けるか”の工夫こそ問われているんだと思います。

ちなみに今回入った保険は、保障も保険料も想定以上に納得のいくものでした。


やっぱり“知ってる”というのは、強いですね!


そして、相手が何を知っているかを“察する力”が、今の時代のPRには求められているのかもしれません。


長々と保険の説明をするのはわかるのですが、やっぱりイラつきますよね!
長々と保険の説明をするのはわかるのですが、やっぱりイラつきますよね!

 
 

最近、私はふたつの新しい取り組みを始めました。ひとつは、「終活」に関するもの。もうひとつは「就活」に関するもの――と書いただけで、すでにややこしいですね(笑)。

まず、「終活」の方は、私が企画しているイベントで、落語を通じて終活を考えるきっかけをつくろうというもので、「笑福終活サロン」と名付けて、セミナー色をあまり出さず、気軽に参加できる形を目指しています。落語会の観客は比較的高齢の方が多く、終活との親和性はあるはず…と思いながらも、「落語が目当てなのに終活の話がついてくるのはちょっと…」と思われるのでは?という懸念もあり、集客はなかなか難しいのが実情です。

それでも、6月に実施した回では、参加人数こそ少なかったものの、内容には手応えがありました。何より、少子高齢化が進む今こそ、終活は避けて通れないテーマです。これまでの延長線上では通用しない、新しい家族のかたちや人生の締めくくり方が求められる中、楽しく、前向きに人生の後半を考える機会として、継続する価値があると感じています。そんな思いから、次回は8月23日、築地本願寺内のブディストホールで、林家つる子師匠をお招きして開催する予定です。


申込はこちらから https://05xy3.hp.peraichi.com/
申込はこちらから https://05xy3.hp.peraichi.com/

 

一方、「就活」の方は、大学生と企業をつなぐPR活動です。人材不足が深刻な今、多くの企業が新卒採用に苦戦しているという話を聞き、先日このコラムでもご紹介した「ジョブヨク」という大学生との交流イベントに参加したことがきっかけになりました。

実際に大学生と話してみて、企業の情報発信の難しさを実感しました。テレビや新聞ではなく、スマホとSNSが情報源になっている今、企業が従来の方法で情報を発信していても、学生には届いていないことが多いと思われます。名前を知られていない企業には、そもそも学生が近づいてこない――という現実があるのです。

また、入社後の早期離職が増えている背景には、学生とのミスマッチもあります。これは一方的な情報不足だけでなく、企業と学生のコミュニケーションの機会が圧倒的に足りていないことが大きいと感じました。PRや対話型イベントを通じて、互いをもっと理解し合える場をつくっていくことが、今後ますます重要になっていくでしょう。

 

で、この二つの「しゅうかつ」。終活と就活、それぞれ全然違う活動ですが、読み方は同じです。先日、電話で「終活」の話をしていたところ、相手は「就活」の話だと思い込んでいたらしく、なかなか話がかみ合わない…。説明してもズレ続け、「あれ?」と気づくまでに時間がかかりました。

私は両方の活動に関わっているので、それを知っている人は混乱しないのですが、片方しか知らない人にとっては、「しゅうかつ」と言われてもどっちの話なのか分かりにくいわけで、こうしたちょっとしたすれ違いに、あらためて言葉による説明の難しさと、日頃のコミュニケーションの大切さを痛感しました。

 

「しゅうかつ」が必要なのは、高齢者も、大学生も、そして企業も、形は違えど、人生の節目と真剣に向き合う活動であることには、共通点があるのかもしれません。

 
 

7月の本ブログでは、原子力発電のPRについて言及しました。今回はその続編として、「なぜ再生可能エネルギーがなかなか進まないのか?」というテーマを、少し踏み込んでお話ししたいと思います。

 

再生可能エネルギーといえば、太陽光発電、風力発電、地熱発電などが挙げられます。東日本大震災の直後には普及が進む兆しがありましたが、思ったほどは広がっていないのが現実です。そこには、表面からは見えにくい多くの課題があるのです。

 

まず一つ目は、土地の問題です。ソーラーパネルの設置には広大な土地が必要ですし、風力発電の風車も設置場所によっては周辺住民の反対を受けることがあります。洋上風力発電という選択肢もありますが、実用化には時間とコストがかかります。地熱発電は日本にとって理想的なエネルギー源に思えますが、火山帯に近い立地には温泉地が多く、観光業との衝突が避けられません。さらに、多くの火山地域が国立公園に指定されており、環境保護の観点から開発が制限されています。

 

しかし、再エネが本格的に進まない最大の壁は、「送電インフラ」にあります。電気は「発電」「送電」「配電」という3段階で供給されますが、かつては地域電力会社がこれを一手に担っていました。発電の自由化は2016年に始まりましたが、送電・配電のインフラは依然として地域の電力会社が独占しており、これが再エネ普及のネックになっています。

たとえば、地方にソーラー発電所を作っても、その電気を都市部に届けるには「高圧の送電線」が必要になります。そのためには、まず電力会社の送電網につなぐための設備を自前で整えなければなりません。そして送電するには、最終的に電力会社の送電網を使うしかありません。

こうした手間やコストがかかるため、電気代はどうしても割高になります。電力会社としても高く買った電気はそのまま高く売らざるを得ないため、もし発電量が少なく、費用に見合わないと判断されれば、その電気の購入自体を断られることもあるのです。

 

また、電気は現在の技術では「貯める」ことができません。さらに送電の過程でロスが生じ、発電した電気がそのまま100%届くわけではありません。この点、原子力発電所は100万kW単位の大発電が可能なため、送電効率やコストの面でも圧倒的に有利です。しかも原発の建設・運営は電力会社が担うため、送電・配電網との接続にも無理がありません。

そもそも日本の電力システムが地域独占になったのは、戦後の復興期に電力の安定供給が不可欠だったためです。電力の安定があったからこそ、日本は驚異的な経済成長を遂げられたとも言えます。

再生エネルギーの導入が思うように進まないのは、日本のエネルギー政策の歴史的背景、そして既存の電力インフラが深く関わっています。発送電の分離が進んだ今でも、制度やコストの問題から再エネの普及は容易ではありません。

 

本音を言えば、電力会社としてもゼロカーボンを目指すために再エネを進めたいという思いはあるはずです。しかし、「送電コスト」と「安定供給」という現実の壁を前にすれば、現状ではやはり原子力発電に頼らざるを得ないというのが実情でしょう。

とはいえ、こうした複雑な背景を十分に説明せず、「再エネに消極的で原子力を推進している」と受け取られてしまうことが、結果として原子力発電そのものへの不信感やマイナスイメージを招いているのではないでしょうか。

さらに言えば、電力会社が原子力発電の必要性を説明しようとする際に、再生可能エネルギーの限界を引き合いに出すことは、再エネを否定しているように見えるリスクもあります。結果として、「再エネ vs 原子力」という対立構図を生み出してしまい、かえって原子力への理解を深める妨げにもなっているのだと思います。

 
 

著者・橘川徳夫 プロフィール

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中央大学経済学部卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、2001年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わってきた。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングがクライアントに好評を博している。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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