【PRコラム】原子力発電のPRに思うこと(その2)~再エネが進まない理由 「理想」と「現実」のPRギャップ
- 徳夫 橘川
- 8月8日
- 読了時間: 3分
7月の本ブログでは、原子力発電のPRについて言及しました。今回はその続編として、「なぜ再生可能エネルギーがなかなか進まないのか?」というテーマを、少し踏み込んでお話ししたいと思います。
再生可能エネルギーといえば、太陽光発電、風力発電、地熱発電などが挙げられます。東日本大震災の直後には普及が進む兆しがありましたが、思ったほどは広がっていないのが現実です。そこには、表面からは見えにくい多くの課題があるのです。
まず一つ目は、土地の問題です。ソーラーパネルの設置には広大な土地が必要ですし、風力発電の風車も設置場所によっては周辺住民の反対を受けることがあります。洋上風力発電という選択肢もありますが、実用化には時間とコストがかかります。地熱発電は日本にとって理想的なエネルギー源に思えますが、火山帯に近い立地には温泉地が多く、観光業との衝突が避けられません。さらに、多くの火山地域が国立公園に指定されており、環境保護の観点から開発が制限されています。
しかし、再エネが本格的に進まない最大の壁は、「送電インフラ」にあります。電気は「発電」「送電」「配電」という3段階で供給されますが、かつては地域電力会社がこれを一手に担っていました。発電の自由化は2016年に始まりましたが、送電・配電のインフラは依然として地域の電力会社が独占しており、これが再エネ普及のネックになっています。
たとえば、地方にソーラー発電所を作っても、その電気を都市部に届けるには「高圧の送電線」が必要になります。そのためには、まず電力会社の送電網につなぐための設備を自前で整えなければなりません。そして送電するには、最終的に電力会社の送電網を使うしかありません。
こうした手間やコストがかかるため、電気代はどうしても割高になります。電力会社としても高く買った電気はそのまま高く売らざるを得ないため、もし発電量が少なく、費用に見合わないと判断されれば、その電気の購入自体を断られることもあるのです。
また、電気は現在の技術では「貯める」ことができません。さらに送電の過程でロスが生じ、発電した電気がそのまま100%届くわけではありません。この点、原子力発電所は100万kW単位の大発電が可能なため、送電効率やコストの面でも圧倒的に有利です。しかも原発の建設・運営は電力会社が担うため、送電・配電網との接続にも無理がありません。
そもそも日本の電力システムが地域独占になったのは、戦後の復興期に電力の安定供給が不可欠だったためです。電力の安定があったからこそ、日本は驚異的な経済成長を遂げられたとも言えます。
再生エネルギーの導入が思うように進まないのは、日本のエネルギー政策の歴史的背景、そして既存の電力インフラが深く関わっています。発送電の分離が進んだ今でも、制度やコストの問題から再エネの普及は容易ではありません。
本音を言えば、電力会社としてもゼロカーボンを目指すために再エネを進めたいという思いはあるはずです。しかし、「送電コスト」と「安定供給」という現実の壁を前にすれば、現状ではやはり原子力発電に頼らざるを得ないというのが実情でしょう。
とはいえ、こうした複雑な背景を十分に説明せず、「再エネに消極的で原子力を推進している」と受け取られてしまうことが、結果として原子力発電そのものへの不信感やマイナスイメージを招いているのではないでしょうか。
さらに言えば、電力会社が原子力発電の必要性を説明しようとする際に、再生可能エネルギーの限界を引き合いに出すことは、再エネを否定しているように見えるリスクもあります。結果として、「再エネ vs 原子力」という対立構図を生み出してしまい、かえって原子力への理解を深める妨げにもなっているのだと思います。
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