top of page

無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~

【PRコラム】原子力発電のPRに思うこと(その5)

2025年11月10日
読了時間: 3分

原発立地の現実とPRの限界─地元貢献はイメージアップにつながるのか


前回のコラムでは、原子力の安全性とPRについてお話ししました。今回はその続きとして、原子力発電所の「立地」と「地域との関係」について考えてみたいと思います。

 

原子力発電所の安全性に最も敏感なのは、当然ながらその地元の住民です。しかし一方で、実際に原発の建設を「誘致」する自治体があるのも事実です。

その背景には、経済的なメリットがあります。原発が立地する自治体では、交付金や補助金が交付され、住民税が安くなったり、公共施設が整備されたりと、地域が潤っている例も少なくありません。また、原発では年に一度「定期検査」が行われ、多くの作業員が地域に滞在するため、一時的とはいえ地元経済に大きな波及効果をもたらします。

 

原発立地には、もう一つ大きな矛盾があります。電力の大消費地は東京や大阪といった大都市圏であるにもかかわらず、原発はそれらから遠く離れた地方に建設されています。

例えば、東京電力の原発があるのは福島県や新潟県ですが、いずれも東北電力の管轄地域です。また、関西電力の原発が集中する福井県は北陸電力の管内にあります。つまり、地元住民が恩恵を受けているのは「電気そのもの」ではなく、「経済的な補助」なのです。

本来、送電ロスを考えれば電力需要の多い都市近郊に建設するのが効率的です。しかし、人口密集地での原発建設は万が一のリスクを考えると現実的ではなく、結果として地方立地が避けられません。

 

原発の立地自治体には、法律に基づいて交付金や補助金が支給されます。その範囲は、原発からおおむね30キロ圏内と定められています。すると、わずかにその範囲から外れる自治体は支援を受けられず、当然反対の立場を取ることになります。この“線引き”が、地域の中に賛否を分けてしまう大きな要因です。

私も以前、原子力関連の会社に勤めていた経験がありますが、電力会社は地元住民への支援や配慮を怠っているわけではありません。むしろ丁寧に取り組んでいます。しかし、「どこまでを地元とするのか」という定義が難しく、結局は感情的な問題に発展してしまうケースが多いのです。

 

さらに、電力会社のPR活動は、地元への貢献を重視するあまり、その立地自治体(市町村)に対する支援や、首長・議員などの政治関係者へのアプローチに重点が置かれがちです。地元理解を得るためには必要な活動ではありますが、それがPR全体の主眼となってしまうことで、広く社会に向けた情報発信や全国的な理解促進が後回しになるという問題も生じています。

結果として、「原発の地元貢献=地域限定の話題」として扱われ、社会全体に伝わるメッセージ性が薄くなってしまう。こうしたPR構造の偏りが、原子力の正しい理解を広げるうえで大きな壁になっているのが実情です。

 

原子力発電のPRは、安全性や環境性といった理屈だけではなく、人の「感情」と向き合わなければなりません。どんなに経済的メリットを示しても、「不安」や「不信感」が拭えなければ、共感は得られません。

結局のところ、原発の地元支援という取り組みは、数字や制度では説明できない“感情の壁”をどう超えるかという課題に直面しています。これを乗り越えるのは、単なる地域PRではなく、全国的な視点での情報発信、そして時間をかけた対話と信頼の積み重ね以外にないのかもしれません。

 

最新記事

すべて表示
【PRコラム】「偶然の出会い」がなくなる?――紙媒体から考えるPR

新聞や雑誌など、かつてメディアの主力を担っていた紙媒体が、次々と休刊や廃刊に追いやられています。 今はWEBの時代ですから、それも仕方がないことだと思います。 電車の中で大きな新聞を広げて読むより、スマホでサクッとニュースを読む方が便利です。漫画もスマホで読む人が増え、私自身も漫画アプリを利用しています。 ただ、便利になった一方で、失われつつあるものもあるような気がします。 それが、「自分が興味を

 
 
 
【PRコラム】「同じ映画を5回観る」から考えた、推し活時代のPR

ウインダムでは、人気アニメの展覧会のPRを担当することがあります。 先日、たまたまそのアニメが大好きだという若い人と仕事をする機会があり、「展覧会のPRに関われてうれしい」と、とても喜んでもらえました。 その人と話をしていて驚いたことがあります。 そのアニメは映画化もされているのですが、なんと同じ映画を5回も観に行ったというのです。 私は、同じ映画を2回観ることすらほとんどありません。テレビで以前

 
 
 
【PRコラム】公約は「守ればいい」のか

消費税減税から考える政治のPR 高市内閣は今月、飲食料品にかかる消費税率を引き下げる方針を決定しました。 これは昨年の衆議院議員選挙で掲げた、食料品の消費税負担を軽減するという公約を実現するための政策です。 選挙で公約を掲げ、その選挙に勝利したのですから、公約の実現に向けて動くこと自体は当然のことだと思います。 ところが、今回の政策に対しては野党やメディアから多くの疑問が投げかけられています。

 
 
 

コメント


著者・橘川徳生 プロフィール

中央大学経済学部を卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、1990年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わる。

​

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案し。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングが好評を得ている。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

bottom of page