top of page

無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~

【PRコラム】「永守イズム」と経営の難しさ――理想と現実のはざまで

4月20日
読了時間: 4分

ニデックの永守重信氏が、不正会計の責任を取る形で名誉会長の辞任を発表し、経営から一切身を引くことになりました。

長年、日本を代表する経営者として知られてきた人物だけに、このニュースに驚いた方も多いのではないでしょうか。

永守氏の経営哲学は「永守イズム」として広く知られ、多くの書籍にもなっています。私自身も何冊か読んできましたが、非常に多くの学びを得ました。経営者になる前に読んだものもあれば、経営者になってから改めて読み直したものもあり、会社を成長させるためのヒントが詰まっていると感じています。

実際、私もその考え方に影響を受け、「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」という方針を参考にして、「すぐやる、なんでもやる、儲かるようにやる」という行動指針を定めました。

 

永守氏の経営スタイルは、強い信念と圧倒的な行動力に支えられていました。その結果として、ニデックを世界的企業にまで成長させたことは、まさに尊敬に値しますし、簡単に真似できるものではありません。

ただし、その哲学がすべての局面で機能し続けるかというと、そうではないのかもしれません。

「すぐやる」「必ずやる」は、自分の意思でコントロールできる要素です。

しかし「できるまでやる」は、必ずしも自分の努力だけで達成できるとは限りません。

創業期のベンチャーであれば、「やればできる」という成功体験が積み重なり、強い推進力になります。

しかし、企業規模が拡大し、世界企業となった段階では、同じ考え方がそのまま通用しない場面も増えてきます。

 

例えば、創業時には売上を倍にすることが現実的な目標だったとしても、現在の規模で同じことを求められれば、現場の社員から見れば「無理を言われている」と感じる場面も出てきます。

それが絶対的な創業者からの指示であれば、「できません」と言うことは難しくなります。

結果として、現場では何とか辻褄を合わせようとする動きが生まれ、それが不正につながるリスクも高まります。

「できるまでやる」は、チャレンジの場面では強いモチベーションになりますが、状況によってはプレッシャーとなり、場合によってはパワハラ的な圧力として受け取られることもあります。

この状態が続けば、「できない」と言えない組織が出来上がってしまいます。

そしてその結果として、不正会計のような問題が生まれてしまったと考えることもできるでしょう。

 

「できるまでやる」という方針自体は、決して間違っているわけではありません。

問題は、それを支える仕組みが十分でなかったことかもしれません。

例えば、

  • できなかった場合は正直に報告する 

  • なぜできなかったのかを徹底的に分析する 

  • その情報を社内で共有し、次の改善につなげる 

といったプロセスが機能していれば、同じ方針でも違う結果になっていた可能性があります。

人はプレッシャーをかけられ続けると、自信を失い、判断力も鈍ります。

その結果、モチベーションが下がり、組織全体のパフォーマンスも低下してしまいます。

 

永守氏ほどの経営者であれば、こうしたリスクに気づいていた可能性は高いと思います。

それでも今回のような事態に至った背景には、周囲がイエスマン化し、必要な情報が上がってこなくなっていたこともあるのではないでしょうか。

報告書にもある通り、最終的な責任は経営トップにあります。

それは間違いありません。

だからこそ、今回の件は、優れた経営者であっても避けられない難しさを示しているとも言えます。

 

経営者として、目標達成に向けてプレッシャーをかけることは必要です。

これは実際に経営をしていると強く実感する部分でもあります。

しかし、そのプレッシャーによって正しい情報が上がってこなくなることは、絶対に避けなければなりません。

この「成果を求める厳しさ」と「情報の透明性」を両立させることは、言うほど簡単ではありません。

むしろ、非常に難しいテーマです。

永守氏のような卓越した経営者であっても、そのバランスを取り続けることは容易ではなかった。

そう考えると、この問題はすべての経営者にとって他人事ではないと感じます。

 

今回の出来事は、単なる経営問題ではなく、PRの観点から見ても重要な示唆を含んでいます。

企業がどれだけ優れた理念や哲学を掲げていても、それが現場でどう受け取られ、どう運用されているかによって、企業の評価は大きく変わります。

そして、組織の内部で起きていることは、最終的には必ず外部に伝わります。

企業のPRとは、単に良いイメージを発信することではなく、実態とメッセージを一致させることに他なりません。

 

今回の件は、尊敬していた経営者であっただけに、非常に残念に感じています。

しかし同時に、経営と組織、そしてPRの難しさを改めて考えさせられる出来事でもありました。

この教訓をどう活かすかが、これからの経営に求められているのだと思います。

最新記事

すべて表示
【PRコラム】「偶然の出会い」がなくなる?――紙媒体から考えるPR

新聞や雑誌など、かつてメディアの主力を担っていた紙媒体が、次々と休刊や廃刊に追いやられています。 今はWEBの時代ですから、それも仕方がないことだと思います。 電車の中で大きな新聞を広げて読むより、スマホでサクッとニュースを読む方が便利です。漫画もスマホで読む人が増え、私自身も漫画アプリを利用しています。 ただ、便利になった一方で、失われつつあるものもあるような気がします。 それが、「自分が興味を

 
 
 
【PRコラム】「同じ映画を5回観る」から考えた、推し活時代のPR

ウインダムでは、人気アニメの展覧会のPRを担当することがあります。 先日、たまたまそのアニメが大好きだという若い人と仕事をする機会があり、「展覧会のPRに関われてうれしい」と、とても喜んでもらえました。 その人と話をしていて驚いたことがあります。 そのアニメは映画化もされているのですが、なんと同じ映画を5回も観に行ったというのです。 私は、同じ映画を2回観ることすらほとんどありません。テレビで以前

 
 
 
【PRコラム】公約は「守ればいい」のか

消費税減税から考える政治のPR 高市内閣は今月、飲食料品にかかる消費税率を引き下げる方針を決定しました。 これは昨年の衆議院議員選挙で掲げた、食料品の消費税負担を軽減するという公約を実現するための政策です。 選挙で公約を掲げ、その選挙に勝利したのですから、公約の実現に向けて動くこと自体は当然のことだと思います。 ところが、今回の政策に対しては野党やメディアから多くの疑問が投げかけられています。

 
 
 

コメント


著者・橘川徳生 プロフィール

中央大学経済学部を卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、1990年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わる。

​

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案し。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングが好評を得ている。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

bottom of page