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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~


7月の本ブログでは、原子力発電のPRについて言及しました。今回はその続編として、「なぜ再生可能エネルギーがなかなか進まないのか?」というテーマを、少し踏み込んでお話ししたいと思います。

 

再生可能エネルギーといえば、太陽光発電、風力発電、地熱発電などが挙げられます。東日本大震災の直後には普及が進む兆しがありましたが、思ったほどは広がっていないのが現実です。そこには、表面からは見えにくい多くの課題があるのです。

 

まず一つ目は、土地の問題です。ソーラーパネルの設置には広大な土地が必要ですし、風力発電の風車も設置場所によっては周辺住民の反対を受けることがあります。洋上風力発電という選択肢もありますが、実用化には時間とコストがかかります。地熱発電は日本にとって理想的なエネルギー源に思えますが、火山帯に近い立地には温泉地が多く、観光業との衝突が避けられません。さらに、多くの火山地域が国立公園に指定されており、環境保護の観点から開発が制限されています。

 

しかし、再エネが本格的に進まない最大の壁は、「送電インフラ」にあります。電気は「発電」「送電」「配電」という3段階で供給されますが、かつては地域電力会社がこれを一手に担っていました。発電の自由化は2016年に始まりましたが、送電・配電のインフラは依然として地域の電力会社が独占しており、これが再エネ普及のネックになっています。

たとえば、地方にソーラー発電所を作っても、その電気を都市部に届けるには「高圧の送電線」が必要になります。そのためには、まず電力会社の送電網につなぐための設備を自前で整えなければなりません。そして送電するには、最終的に電力会社の送電網を使うしかありません。

こうした手間やコストがかかるため、電気代はどうしても割高になります。電力会社としても高く買った電気はそのまま高く売らざるを得ないため、もし発電量が少なく、費用に見合わないと判断されれば、その電気の購入自体を断られることもあるのです。

 

また、電気は現在の技術では「貯める」ことができません。さらに送電の過程でロスが生じ、発電した電気がそのまま100%届くわけではありません。この点、原子力発電所は100万kW単位の大発電が可能なため、送電効率やコストの面でも圧倒的に有利です。しかも原発の建設・運営は電力会社が担うため、送電・配電網との接続にも無理がありません。

そもそも日本の電力システムが地域独占になったのは、戦後の復興期に電力の安定供給が不可欠だったためです。電力の安定があったからこそ、日本は驚異的な経済成長を遂げられたとも言えます。

再生エネルギーの導入が思うように進まないのは、日本のエネルギー政策の歴史的背景、そして既存の電力インフラが深く関わっています。発送電の分離が進んだ今でも、制度やコストの問題から再エネの普及は容易ではありません。

 

本音を言えば、電力会社としてもゼロカーボンを目指すために再エネを進めたいという思いはあるはずです。しかし、「送電コスト」と「安定供給」という現実の壁を前にすれば、現状ではやはり原子力発電に頼らざるを得ないというのが実情でしょう。

とはいえ、こうした複雑な背景を十分に説明せず、「再エネに消極的で原子力を推進している」と受け取られてしまうことが、結果として原子力発電そのものへの不信感やマイナスイメージを招いているのではないでしょうか。

さらに言えば、電力会社が原子力発電の必要性を説明しようとする際に、再生可能エネルギーの限界を引き合いに出すことは、再エネを否定しているように見えるリスクもあります。結果として、「再エネ vs 原子力」という対立構図を生み出してしまい、かえって原子力への理解を深める妨げにもなっているのだと思います。

 
 

~伝わるPRの鍵は「相手の立場」と「最終消費者」~

 

以前この講座でも「BtoBのPRは難しい」というテーマを取り上げました。

BtoBビジネスでは、誰に情報を届けたいかが明確である一方で、いざPRとなると「どう伝えるか」が非常に難しいという話でした。

最近、あるBtoBの仕事をしていて、あらためてその“難しさ”を感じる出来事がありました。弊社では、美術館のPR業務を請け負っています。直接の取引相手は美術館や展覧会の主催者、つまりビジネスの形態としてはBtoBです。

ところが、PRの提案となると、「一般のお客様(BtoC)にどう伝えるか」を意識した内容でなければ、採用されないのです。改めて「PRはたとえBtoBでも“C”を意識しなければ伝わらない」という実感を持ちました。

 

“C”には2つの意味があります。

1つは「Customer(顧客)」、もう1つは「Consumer(消費者)」です。

BtoB企業であれば「カスタマー=取引先企業」を意識するのは当然でしょう。

しかし、「その先にいるコンシューマー=実際に使う人・体験する人」を意識したPRができているか?と問われると、意外と抜け落ちているケースが多く見られます。

 

BtoB企業のPRでありがちなのが、自社の製品やサービスの優位性を一方的に語ってしまうこと。たとえば「高性能」「高耐久」「業界シェア○%」といった内容ばかりが並ぶ資料やリリースをよく見かけます。

もちろん、製品の魅力を伝えることは大切です。しかし、その前に「相手にとって、どんな課題を解決するのか?」を考えなければ、情報は“届く”ものにはなりません。

「自分が伝えたいこと」ではなく、「相手が知りたいこと」を出発点にすることが、PRとしての第一歩です。

 

たとえば運送業を例にとってみましょう。個人宅に荷物を届ける宅配業者であれば、消費者を意識する機会も多く、サービス改善にも結びつきます。

しかし、多くのBtoB型運送業者は「企業から企業への輸送」がメインのため、直接の“C”=消費者と接点がありません。その結果、「自分たちの仕事の価値」が伝わりにくくなってしまう。

ここであえて“消費者の視点”を持つことで、「この製品がどう使われるか」「どう喜ばれているか」というゴールが見えてきます。それを社外に伝えることが、自社の存在意義や価値を伝えるストーリーにつながっていくのです。

 

最終的にモノやサービスは「消費される」ために作られています。だからこそ、“誰がどう使い、どんな満足を得るのか”というストーリーを描くことで、PRは一気に伝わりやすくなります。

そのストーリーが一般の人にも伝わるようになれば、カスタマーである取引先企業の認識や理解も深まり、PR効果がじわじわと広がっていきます。

 

「うちはBtoBだから、一般向けの発信は関係ない」と思っていませんか?実はその“思い込み”こそが、伝わらないPRの原因になっているのかもしれません。

BtoBビジネスにおいても、“最終的な使い手”や“体験する人”=Cを想像しながらPRを組み立てることで、言葉や構成が変わってきます。そして、その変化がやがて顧客との関係性や信頼にもつながっていくのだと私は感じています。

 

「Cを意識する」ことは、BtoC企業に限った話ではありません。むしろ、Cから遠い立場にあるBtoB企業にとってこそ、より意識する価値がある考え方なのです。

 
 

実際に参加して驚いたのは、大学生の考えがとても“しっかりしている”ことです。将来について真剣に考え、自分なりの価値観を持っている学生が多くて、正直、感心させられました。(このイベントに参加している学生の意識が高い、というのもあるかもしれませんが…)

 

ふと自分の大学時代を振り返ると、「なんとなくこの会社でいいかな」「かっこよさそうだから」程度の感覚で就職先を考えていたように思います。明確な将来像を持っていたわけでもなく、周囲もだいたい同じようなものだった気がします。

 

ただ、今の学生たちと接してみて、時代の違いも感じました。

現代の若者は、生まれたときからネットやスマホが当たり前にある世代なので、直接的な関係よりも、自分にとって“心地よい距離感”でのつながりを大切にする傾向があるように思います。それ自体は悪いことではありませんが、私たちの世代のように「空気を読む」「相手に合わせる」「みんなで楽しむ」といった感覚は、ちょっと苦手に感じる場面もあるかもしれません。

だから、無理に相手に合わせることがストレスになりやすいのではないでしょうか。我々が自然にやっていた“気配り”や“思いやり”も、今はちゃんと言葉にして、時にはマニュアル化して教える必要がある時代なのかもしれません。

それでも、今回出会った学生たちは、私の話にきちんと耳を傾けてくれました。「自分が正しい」と押しつけるのではなく、相手の価値観も受け入れながら、夢を実現する手助けができたらいいな、と思っています。

 

そして何より夢を語る若者の姿が、まぶしかったです。

この年齢になると、現実を知りすぎて、なかなか“夢”を持つのが難しくなります。だからこそ、夢を語れる若者たちが本当にうらやましい。今の私の夢といえば、「家族の健康や、社員の幸せ。」(本当ですよ(笑))そんなささやかな願いを大切にしながら、これからもできることをやっていきたいと思います。


ちなみに、「ジョブヨク」は社会人なら誰でも参加できるイベントです。学生との対話に興味がある方は、ぜひ一度参加してみてはいかがでしょうか?学びと気づきが、きっとあると思います。


ジョブヨクはこんな雰囲気のイベントです。
ジョブヨクはこんな雰囲気のイベントです。

 
 

著者・橘川徳夫 プロフィール

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中央大学経済学部卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、2001年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わってきた。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングがクライアントに好評を博している。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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