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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~

原発立地の現実とPRの限界─地元貢献はイメージアップにつながるのか


前回のコラムでは、原子力の安全性とPRについてお話ししました。今回はその続きとして、原子力発電所の「立地」と「地域との関係」について考えてみたいと思います。

 

原子力発電所の安全性に最も敏感なのは、当然ながらその地元の住民です。しかし一方で、実際に原発の建設を「誘致」する自治体があるのも事実です。

その背景には、経済的なメリットがあります。原発が立地する自治体では、交付金や補助金が交付され、住民税が安くなったり、公共施設が整備されたりと、地域が潤っている例も少なくありません。また、原発では年に一度「定期検査」が行われ、多くの作業員が地域に滞在するため、一時的とはいえ地元経済に大きな波及効果をもたらします。

 

原発立地には、もう一つ大きな矛盾があります。電力の大消費地は東京や大阪といった大都市圏であるにもかかわらず、原発はそれらから遠く離れた地方に建設されています。

例えば、東京電力の原発があるのは福島県や新潟県ですが、いずれも東北電力の管轄地域です。また、関西電力の原発が集中する福井県は北陸電力の管内にあります。つまり、地元住民が恩恵を受けているのは「電気そのもの」ではなく、「経済的な補助」なのです。

本来、送電ロスを考えれば電力需要の多い都市近郊に建設するのが効率的です。しかし、人口密集地での原発建設は万が一のリスクを考えると現実的ではなく、結果として地方立地が避けられません。

 

原発の立地自治体には、法律に基づいて交付金や補助金が支給されます。その範囲は、原発からおおむね30キロ圏内と定められています。すると、わずかにその範囲から外れる自治体は支援を受けられず、当然反対の立場を取ることになります。この“線引き”が、地域の中に賛否を分けてしまう大きな要因です。

私も以前、原子力関連の会社に勤めていた経験がありますが、電力会社は地元住民への支援や配慮を怠っているわけではありません。むしろ丁寧に取り組んでいます。しかし、「どこまでを地元とするのか」という定義が難しく、結局は感情的な問題に発展してしまうケースが多いのです。

 

さらに、電力会社のPR活動は、地元への貢献を重視するあまり、その立地自治体(市町村)に対する支援や、首長・議員などの政治関係者へのアプローチに重点が置かれがちです。地元理解を得るためには必要な活動ではありますが、それがPR全体の主眼となってしまうことで、広く社会に向けた情報発信や全国的な理解促進が後回しになるという問題も生じています。

結果として、「原発の地元貢献=地域限定の話題」として扱われ、社会全体に伝わるメッセージ性が薄くなってしまう。こうしたPR構造の偏りが、原子力の正しい理解を広げるうえで大きな壁になっているのが実情です。

 

原子力発電のPRは、安全性や環境性といった理屈だけではなく、人の「感情」と向き合わなければなりません。どんなに経済的メリットを示しても、「不安」や「不信感」が拭えなければ、共感は得られません。

結局のところ、原発の地元支援という取り組みは、数字や制度では説明できない“感情の壁”をどう超えるかという課題に直面しています。これを乗り越えるのは、単なる地域PRではなく、全国的な視点での情報発信、そして時間をかけた対話と信頼の積み重ね以外にないのかもしれません。

 

 
 

今年は9月に東京で世界陸上が開催され、陸上競技が久しぶりに大きな注目を集めました。その盛り上がりを引き継ぐように、10月に入ると駅伝のシーズンが到来し、駅伝ファンにとっては心待ちの季節となりました。

 

駅伝シーズンの幕開けを告げるのは、10月12日に行われた「出雲駅伝」です。続いて10月26日には、大学女子日本一を決める「全日本大学女子駅伝」、そして11月2日には「全日本大学駅伝」と、秋はまさに駅伝三昧の季節です。


わが母校・中央大学は、出雲駅伝で優勝候補とされながらも波に乗れず、結果は10位に終わりました。全日本大学女子駅伝では、1区の出遅れから流れに乗れず上位争いに加わることもないまま18位という実力の差を感じる順位でした。続く全日本大学駅伝では、上位争いを展開しましたが、惜しくも2位となりました。選手が実力を発揮すれば、上位で走れることを証明したことで、箱根駅伝優勝という目標に期待が持てそうです。


駅伝という競技は、単に走力だけで勝敗が決まるものではありません。チームの総合力や現場での判断力、そして選手一人ひとりの精神力など、さまざまな要素が絡み合って結果が出ます。そのため、プレッシャーやレースの流れによって、本来の力を出し切れないこともあります。

だからこそ駅伝は面白いのです。抜きつ抜かれつの展開に手に汗握り、母校の選手が懸命に走る姿に胸が熱くなります。ただ、テレビ観戦となると、上位争いに加わらなければ画面に映る機会がぐっと減ってしまいます。しかし、中位以降のチームだと、襷(たすき)をつなぐ中継所のシーンでしか映らないことも多く、今どのあたりを走っているのかが、中継所に来ないとわからないというもどかしさがあります。(頑張っている選手には本当に申し訳ないのですが……)

 

箱根駅伝のときは、テレビ中継を見ながらスマホとPCを駆使し、現在の順位速報を大まかチェックし、「中大が上がった!」「抜かれた……」と一喜一憂しています。やはり上位争いに加わって、テレビに多く映るようなレースをしてくれると、応援のしがいがあります。

 

ただし、けがや熱中症などによるアクシデントでトラブルがあるとテレビはそのことを当然のことながら中継しています。

確かにこういうトラブルも駅伝のドラマだと思いますが、正直、どの大学の選手であっても、そんなシーンは見たくありません。だからこそ、選手の皆さんには、どうか万全の体調で臨んでもらいたいと思います。


駅伝の醍醐味は、やはり互いに力を出し切って、最後まで競い合うところにあります。その中で見せる全力の走りこそが、観る人の心を打ち、駅伝という競技の魅力を作っているのだと思います。

お正月の箱根駅伝でも、選手たちがベストコンディションで臨み、それぞれの大学の襷を力強くつないでいく姿を期待しています。きっと今年も、テレビの前で「頑張れ、中大!」と声を出しながら、おじさんはリモコン片手に熱くなっていることでしょう。

 

 
 

私が子どもの頃、家にあったのは黒電話でした。いまではスマホが当たり前の時代になり、電話を“かける”よりも“タップする”ほうが主流になりました。

会社に入った頃、ようやくFAXが導入されたばかりで、社内に1台だけ。FAXが届くと、わざわざその部屋まで取りに行く――そんな時代もありました。あの頃はそれが最先端の通信手段だったのです。

やがて携帯電話が登場し、私も比較的早く手に入れました。当時は「そんなもの持ってどうするの?」なんて言われましたが、どこでも話せる便利さは圧倒的でした。そして今はスマホの時代。電話というより、生活を支える“情報端末”になっています。


若い人の家庭では、固定電話を持たないケースがほとんどです。「携帯があるから必要ない」――確かにその通りです。

私が若い頃、家に固定電話を引くというのは、ちょっとしたステータスでした。というのも、固定電話を設置するには申し込みをして工事を待ち、しかも「電話加入権」というものを購入する必要がありました。その加入権が十数万円もしたのですから驚きです。ですから、自分の家に電話を持てるということは、ある意味で“一人前”になった証でもありました。


最近では、会社の代表電話をなくして社員にスマホを支給する企業も増えました。とはいえ、会社にかかってくる電話の多くは営業の売り込みばかりです。中には、代表電話を持たない、あるいはあっても公開しない企業もあります。また、家庭では営業電話や詐欺まがいの電話が増え、受話器を取るのも警戒する時代になりました。


でも、正直に言うと、おじさんとしては少し心配になるのです。

「代表電話がない会社って、本当にちゃんとしているのか?」と。もちろん、時代の流れは理解していますが、固定電話には“安心感”がありました。ちゃんとした場所に会社があり、誰かがきちんと受け答えしてくれる――そんな当たり前のことが、信頼の証でもあったのです。


いまの若い人には、そんな感覚はもう古いのかもしれません。若い世代は電話で話すこと自体が苦手だといいます。スマホは“話す道具”というより、SNSやメッセージアプリでつながる“コミュニケーション端末”。もはや「電話」は“声で話すもの”という定義から離れつつあります。

それでも、おじさん世代にとって固定電話は、ただの通信手段ではなく「会社の顔」であり、「信頼の音」でもありました。とはいえ、現実には固定電話の役割は確実に減っています。スマホやチャットでやり取りができるいま、必要性が薄れていくのも仕方のないことです。


とはいえ、最近では会社にかかってくる電話のほとんどが営業の売り込みばかりです。忙しいときに限って鳴り響くものだから、正直イライラしてしまうこともあります。固定電話の利用がそうした営業電話ばかりになってしまうのであれば、なくなっていくのも仕方がないのかもしれません。

けれど、電話をかける側も、もう少し相手の状況や迷惑を考えてほしいものです。こうしたことが続けば、「固定電話はいらない」と思う人が増え、いずれはどの会社からも固定電話が消えてしまう時代が来るかもしれません。


固定電話の必要性をまだ感じているおじさんとしては、それが少し寂しく感じます。メッセージやスタンプのやり取りも便利ですが、やはり電話の良さは“その場で話せること”にあります。お互いの声を聞きながら、その瞬間に理解し合い、合意できる――そんなリアルなコミュニケーションこそ、電話ならではの魅力だと思うのです。


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著者・橘川徳夫 プロフィール

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中央大学経済学部卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、2001年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わってきた。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングがクライアントに好評を博している。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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