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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~

【PRコラム】原子力発電のPRに思うこと(その6)

電力需要の急増と原子力PRの新たな課題─「不足だから原発」では伝わらない


前回のコラムで、原子力発電所が地方自治体に経済的な恩恵をもたらしている現実についてお話ししました。今回は、カーボンニュートラルの推進と並んで、原子力発電が再び必要とされる理由のひとつである「電力需要の増大」について考えてみたいと思います。

 

私が電力会社に勤めていたころは、「日本の電力需要は今後大きくは伸びない」というのが一般的な見方でした。理由は明確で、家電製品の省エネ化が進んでいたこと、そして日本の人口減少が予測されていたからです。

ところが、時代は予想を超えるスピードで変化しました。インターネットの発達により、あらゆる産業がデジタル化し、それに伴ってデータセンターの需要が急増しました。特に近年は、AI(人工知能)の進化が電力事情を一変させつつあります。AIの学習や運用には膨大な電力を必要とするため、世界的に「データセンターが電力を食い尽くす」とさえ言われています。

さらに、自動車産業でもエネルギー転換が進んでおり、電気自動車(EV)が普及すれば、家庭や都市部での電力需要は確実に上昇します。こうして電力の需要構造が変化する中、「電気が足りない」という現実が目前に迫りつつあります。

 

では、その電力をどう確保すればよいのでしょうか。カーボンニュートラルの観点からは、石炭や石油といった化石燃料に頼ることはできず、再生可能エネルギーもまだ十分に普及していません。結果として、「では原子力で補うしかない」というのが政府の現状の考え方のようです。結果として、「では原子力で補うしかない」というのが政府の現状の考え方のようです。

ただし、この説明をそのままPRのメッセージにしても、国民の共感は得られにくいと感じます。「電力が足りないから原子力を使う」という論理は、選択肢がないから仕方なく使うという印象を与えてしまうからです。PRとしては、ストーリー性に欠け、未来への希望や納得感を伝えにくいのです。

 

原子力発電の必要性を理解してもらうには、「不足だから仕方なく使う」のではなく、どう使えば社会に価値を生むかという視点が欠かせません。

たとえば、データセンターと原子力発電所を同じ地域に隣接させ、地方の産業活性化を図るような構想があれば、電力ロスを減らし、地域雇用を生むという一石二鳥の効果が期待できます。これは単なるエネルギー供給ではなく、「地方創生と技術革新を結びつけたPRストーリー」として描ける可能性があります。

しかし現行の法律では、電力会社が特定の企業や施設に優先的に電力を供給することは禁止されています。電力供給の公平性を保つための規制ですが、こうした仕組みが柔軟にならなければ、新しいエネルギー戦略の展開は難しいのが現実です。

 

結局のところ、原子力発電を効果的にPRしていくには、単独での訴求には限界があります。エネルギー政策と産業政策を一体的に進め、その中で原子力の役割を位置づけることが重要です。

「電力不足だから原発」ではなく、「電力を支えることで、産業と地域を強くする」のような社会全体の発展と結びつけて語ることができなければ、原子力のPRは浸透しません。

 

原子力に対するPRの目的は、単に理解を得ることではなく、納得を得ることにあります。人々が「これなら必要だ」と思えるストーリーを描くことができなければ、どんなに正しい理屈でも支持は広がりません。

今後、AIやEVなどの新たなテクノロジーが進む中で、電力は確実に「社会の血液」としての重要性を増していきます。そのエネルギーをどう供給し、どう未来に活かすのかという課題に応えられること訴えなければ、原子力のPRが本来果たすべき役割があるのだと思います。

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著者・橘川徳生 プロフィール

中央大学経済学部を卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、1990年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わる。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案し。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングが好評を得ている。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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