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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~

【PRコラム】原子力発電のPRに思うこと(その7)

原子力PRが難しい本当の理由──論理と感情のすれ違い


これまで6回にわたり、原子力発電のPRについてさまざまな問題点を取り上げてきました。再生可能エネルギーのコスト、日本の原子力政策、安全性、発電所の立地地域、そして電力需要の拡大――。どれも避けて通れない重要なテーマですが、振り返ってみると、結局のところ「これさえやれば解決する」という決定的なPR手法は存在しない、という結論に行き着きます。

なぜなら、原子力発電をどう捉えるかは、人それぞれの優先順位によって大きく変わってしまうからです。

 

例えば、次のような考え方は珍しくありません。

  • 地球温暖化対策のために火力発電は減らすべきだが、再生可能エネルギーで電気料金が大幅に上がるのであれば、原子力の利用もやむを得ない。

  • 電力需要を安定的に賄うためには、理想論ではなく現実的なエネルギーを使うべきだ。

  • 原子力発電所の建設によって地元産業の育成や地域振興につながるのであれば、一定程度は許容できる。

  • 自分が住んでいる地域でなければ、それほど身近な危険ではないので、立地自体には反対しない。

このように、何を重視するかによって、原子力発電への評価は簡単に変わってしまいます。そのため、ある一つの問題について理解を得られたとしても、別の不安や疑問が浮かび上がり、PRの効果がなかなか積み重なりません。

 

原子力発電に対する国民の多くは、「絶対に必要だ」とも「絶対にやめるべきだ」とも強く主張していないのではないでしょうか。

むしろ、「自分に直接的な不利益がなければ、あっても仕方ない気はするが、できればない方がいいのかもしれない」という、非常に曖昧で距離を取った立場の人が多いように感じます。

しかし一方で、原子力を使わない場合の具体的な代替案(どのエネルギーで、どれくらいのコストで、どの程度安定供給できるのか)について、踏み込んで理解している人は、決して多くありません。

 

このような状況では、いくら論理的に「原子力は必要だ」「現実的な選択肢だ」とPRを行っても、感情に訴える反対論を完全に打ち消すのは難しいでしょう。

PRの世界では、ストーリーによって感情に訴える手法が非常に効果的だとされています。しかし原子力の推進側は、感情に訴える材料がどうしても乏しく、安全性、コスト、安定供給といった論理的説明に頼らざるを得ないのが現実です。

一方、反対派の主張は、「事故への恐怖」「将来への不安」「万が一への懸念」といった感情に直接訴えかける要素が多く、特に強い意見を持っていない人ほど、その声に引き寄せられやすくなります。

 

原子力のPRが難しい最大の理由は、論理で説明しなければならない推進側と、感情で訴える反対側の土俵がそもそも違う、という点にあるのだと思います。

理屈としては理解できても、気持ちとしては受け入れきれない。その“違和感”をどう埋めるかが見えない限り、原子力PRはこれからも難しいままでしょう。

 

これまで述べてきた数々の問題点は、そのすべてが絡み合っています。だからこそ、単発のPRや一方向の説明ではなく、国民一人ひとりの立場や感情を前提にした、長期的な対話とストーリーづくりが求められているのではないでしょうか。

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著者・橘川徳生 プロフィール

中央大学経済学部を卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、1990年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わる。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案し。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングが好評を得ている。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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