【PRコラム】原子力発電のPRに思うこと(その3)~迷走する原子力政策とPRの限界
- 徳夫 橘川
- 9月10日
- 読了時間: 3分
前回のコラムでは、再生可能エネルギーの課題を切り口に、原子力発電のPRについて触れました。今回は少し視点を変え、日本がなぜ原子力発電を推進してきたのか、その背景と現状の課題についてお話しします。
日本は、石油や天然ガス(LNG)、石炭といった主要な化石燃料の国内資源をほとんど持ちません。かつての炭鉱もほぼ掘り尽くされ、世界的に見ても採掘条件の良い鉱脈は残っていません。さらに、火力発電はゼロカーボン政策の観点からも将来性が限定的です。
「水が豊富な国」というイメージから水力発電を思い浮かべる方も多いですが、発電に必要な規模の水量で見れば、日本は世界的にそれほど恵まれていません。こうした背景から、日本はエネルギーの安定供給を目指し、原子力発電に着目しました。
原子力発電は、少量のウランで非常に大きな電力を生み出せるため、当時は費用対効果が極めて高いエネルギー源とされていました。しかも、使用済み核燃料を再処理すれば再び利用でき、自国でエネルギーを循環させることも理論上可能です。
さらに、日本が進めた「高速増殖炉」は、発電と同時に燃料を増やせるという“夢の原子炉”と呼ばれ、資源の乏しい日本にとってはまさに理想的なシステムでした。そのため、「再処理システム」と「高速増殖炉」は、原子力政策の両輪として長年推進されてきたのです。
しかし、現実は理想通りには進みませんでした。高速増殖炉「もんじゅ」は巨額の予算を投じたにもかかわらず、度重なるトラブルで廃炉に。六ケ所村の再処理工場も、いまだ稼働には至っていません。
世界的にはゼロカーボンの流れから原子力を再評価する動きが広がる中、日本はこの二本柱を失ったことで、原子力政策自体が迷走状態に陥っています。その結果、かつては「自国エネルギーの確保」が主目的だった原発推進の理由が、「ゼロカーボン」という環境面の理由に置き換わってきました。
コストや地球温暖化の観点から見れば、原子力発電は有効な選択肢のひとつです。しかし、安全性の問題は避けられず、再生可能エネルギーの方が望ましいと考える国民も少なくありません。
結局のところ、原子力政策が国として明確に定まらない限り、原子力推進のPRは難しいままです。あいまいな方針で進めれば、「再エネを軽視して原発を押し進めている」という批判だけでなく、「安全性を軽視しているのではないか」という不安も国民の中に広がります。こうした疑念は、原子力そのものへの不信感を強め、逆にマイナスイメージを助長してしまいます。
もし国が本気で原子力発電を進めたいのであれば、まずは国民が納得できる、わかりやすく一貫性のある原子力政策を示すことが先決です。それなくしては、どんなに巧みなPR戦略を立てても、信頼は得られないでしょう。





コメント