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無知の玉手箱
~知らないから始まるマーケティング~

【PRコラム】酷暑の夏、屋外イベントは続けられるのか?


夏といえば、花火大会、夏祭り、音楽フェス……。多くの人にとって季節の楽しみであり、地域の恒例行事として長年続いてきたイベントが目白押しです。人気が高く来場者数も多い分、「中止」や「日程変更」はよほどのことがない限り判断しにくいのが現実です。

しかし、今年の夏は異常な暑さにより、さすがに開催の有無を検討した主催者もあったのではないでしょうか。とはいえ、直前に中止を決めるのは難しく、結局ほとんどのイベントが予定通り実施されたように思います。

 

花火大会やフェスが天候で中止になった際、「翌日や翌週に順延すればいいのでは?」という声を聞くことがあります。しかし、実際には警備費用や人件費の問題があってほぼ不可能です。

花火大会で必要なのは花火師だけではありません。来場者の安全を守るため、多くの警備員や案内スタッフが必要になります。2001年の明石市の花火大会事故以降、警備体制は大幅に強化されており、来場者が増えれば増えるほど費用も膨らみます。中止になったからとはいっても、人員を確保すれば、その費用は発生します。さらに、順延での開催となればスタッフを追加で確保する必要があり、その費用再度かかるため、ほぼ倍の予算となり、多くの主催者にとって、そんな予算は確保できません。

さらに、この猛暑では熱中症対策のために医師や看護師の配置、水の配布、冷房施設の設置など、追加コストも発生します。屋外イベントは天候に大きく左右されるため、主催者は常に天気予報とにらめっこ状態です。

 

「イベント保険」という仕組みもありますが、すべての損失を補償しようとすれば保険料は非常に高額になります。結果的に、多くの主催者はリスクを承知の上で開催日を設定し、あとは祈るしかないのが実情です。

雨の少ない季節に開催時期を変更するという選択肢もありますが、夏ならではの集客効果や雰囲気を考えると、簡単には踏み切れません。

 

PRの観点からすると、夏の屋外イベントは絶好の話題づくりの場です。地域の魅力を発信し、ニュースやSNSで多くの人の関心を集めることができます。しかし、中止になればその効果はゼロ。取材対応も天候や暑さに左右され、準備の労力に見合わないこともしばしばです。

先日、あるイベント会社の制作担当者に「屋外イベントやっていますか?」と尋ねたところ、返ってきた答えは一言、「死んじゃいます」。この酷暑の中では、企画・運営側も参加者もメリットよりリスクのほうが大きくなってしまいます。

 

夏の屋外イベントは、地域にとってもPRにとっても魅力的な素材です。しかし、ここまで暑さが厳しいと、実施そのものを再考すべき時期に来ているのかもしれません。

PRに携わる者としては寂しい思いもありますが、安全と持続性を考えれば、時には「やらない勇気」も必要だと感じています。

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著者・橘川徳生 プロフィール

中央大学経済学部を卒業。大学時代は、落語研究会に所属するほどの話好き(うるさいというのが周りの評価?)。座右の銘は「無知の知」。大学卒業後、電力会社や生命保険会社での勤務を経て、1990年ウインダムに入社。過去の様々な業務経験を活かして、PR業務に携わる。

落語研究会で養った自由な発想をもとに、様々なPRやマーケティング企画を立案し。業務を通して蓄積した広範な業務知識をベースに、独自のPRコンサルティングが好評を得ている。趣味はランニングと読書。本から新たな知識を見つけたり、ランニング中にアイデアを思い浮かべる。

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